画一的な「インターナショナル・スタイル」は都市を不毛にさせた諸悪の根元として指弾され・・・


社会は柔軟な姿勢(やわらかアタマ)で、都市と建築が再び「楽園」をもたらすことに大きな期待をかけました。


建築家たちも、主体性を回復して、この「楽園」復活の時代に臨もうとしていました。


周知のようにバブル経済の隆起は、都市に対する関心を是非はともかく異様なまでに盛り上げ、建築も建築家も時代の中心に押し出されていきました。


それは社会の側にもかなうものならば、「楽園」としての都市を復活したいとの潜在的な願望が根強く存在していたからに他なりません。


国際的な金融市場を舞台にした錬金術がもたらす潤沢な資金を元手に、倉庫や工場が並んでいた荒涼たる岸壁や操車場の跡地が、数年にしてオフィス街区に姿を変えました。



思潮の変化を「実験」する舞台が、用意されようとしていました。


社会も、資本も、今こそ、都市計画家や建築家の力を必要としていました。


逼塞して都市への諦念(「東京砂漠」という1960年代の言葉がそれを象徴する)を植え付けてしまったモダニズムへの反省に立って、多くのひとびとに都市への信頼を回復させ・・・


20世紀が豊かな世紀であったとの実感を与えることが、彼らに負わされた課題でした。


このように「政治」を超克し、「技術」を解脱し、「消費」を味方につけ、格好の「舞台」も用意されたうえで、1980年代の都市と建築は順風満帆のスタートを切りました。


逆にいえば、モダニズムはそれらの枷によって、19世紀都市が実現していた「楽園」を終息させることに血道を上げていた感さえあります。


しかし、ポスト・モダンは悪循環の鎖を断ち切って都市と建築に「自由度」を回復させる新たな展開まで持ち込むことに成功したのです。


論争はいとわないですが、天下の大新聞に小役人が反論を載せることは難しいのです。


用意した反論を読み返しながら、記者と私の二つの意見の間にある、協力とか開発についての典型的な問題意識の差を考えつづけました。


経済開発を進めることは、物質文明へ、貨幣経済へと進めることを意昧し、過去の伝統や「暖かさ」を失わせる可能性が高いのです。


記者は、こうした立場から、タイ政府の開発政策と日本をはじめとする他国の援助を非難しました。


開発は人間性を奪い、文化を引き裂いています。


歴史を大切にし、民衆に焦点をあてた幅広い参加による開発が目指されるべきです。


・・・・こうした意見は文化文明論としては正論でしょう。


しかし、「暖かい」からといっていつまでもスラムを温存してはならないでしょうし、独自の文化や歴史を持っているからといって貧しさをそのままにすることは許されません。


日本を代表するある新聞の記者がタイから帰国して間もなく、自社の新聞に「開発政策を是とし、タイゐ女化を失わせる議論」としてY氏に対する厳しい批判を載せました。


「企画庁出身でタイの経済社会開発庁に出向しているY氏の論文に対する批判」と書かれていました。


私の論文を読んだことのない何人かが、Y氏を読みとり、「ひどい論文を書いたな」と電話してきました。


ただちに秘書課長室に行って「進退伺いを出します」と詫びました。


明らかに企画庁に迷惑を掛ける新聞記事であったからです。


しかし、課長はいってくれました。


「こんなことで進退伺いなら、役人はつとまらない」と。


記者の引用した論文は、その記者が書いた対タイ援助に関する本の書評であり、バンコク日本人商工会議所の所報に掲載した私のタイ援助論でもありました。

日本はかつての暖かさをすて、経済的な進展だけを考えてきたのかもしれません。


同じ間違いを避けるべきだというのは正しいです。


資本主義は強者の論理という性格を持っているため、経済開発は残念ながら部門間の格差を拡大する傾向を持っています。


しかし、日本も戦前には、絶望的ともいえる格差がありましたし、たったこの間まで、中小企業と大企業間の二重構造が日本経済の宿命ととらえられていました。


成長のなかで、底辺を上昇させたのです。


タイでも同様な動きを期待してもいいのではないでしょうか。


1%の人々の高い所得水準を、一挙に国民全体の水準にすることは不可能でしょうが・・・


開発行政によって、1%を5%に、5%を10%にすることができるのではないでしょうか。


こうした期待をいだいているからこそ、圧倒的に多くのタイ人が開発を望んでいるのです。


タイは発展途上国の模範生といわれてきました。


しかし、合計6年強の滞在のなかで発見したのは、所得上位1%ほどの人々の高い生活水準と圧倒的多数の庶民の貧しさという、大きな格差でした。


スラムも農村も、他の周辺諸国と比較すれば所得水準は高いでしょう。


しかし1%の人々は99%の人々の考え方や生活を知ろうとせず、むしろ格差を利用していますし、99%の人には諦めがあります。


格差はタイの人々の心をむしばんでいるように思えました。


こうした格差の実状を見て、ただやたらに腹をたてていました。


格差や貧困に無力な先進国を含む各国政府。


格差是正といいながら、自らの行動にはまったく疑問を持たない1%の人々・・・。


特に、理論的にはきわめて高度な発言をしながら、政策を考え実行しようとしないエリートたち。


そして、疑問をもつだけの自分・・・。

例えば企業間の取引では、原則として国定価格を廃して、契約で取引価格を決めることになっています。


しかし、特に企業活動に不可欠な生産財などは、独占的に生産している企業が少なくありません。


競争原理が働かないままにペレストロイカは発進したといってもよいでしょう。


無競争状態の独立採算制の下では、逆に卸売物価の高騰を招きかねないのです。


また、卸売市場を機能させるには、政府の補助金撤廃によるあくまで需要と供給に基づいた新価格体系への移行は避けられません。


・・・しかし、物不足をそのままにしての急激な改革では物価高騰を引き起こす可能性も大きいでしょう。


88年10月末のソ連最高会議が89年度の経済計画案で消費財と食糧の生産を最優先課題とする民生型にしたのも、国民生活の不満を回避し、ペレストロイカを軌道に乗せるための緊急措置と言えそうです。


ソ連最高会議で採択した89年度国民経済発展計画では、消費財生産の伸びを生産財生産の2.3倍に設定。


実質国民所得の伸びも88年度目標の2・7%を上回る3・1%とするなど、国民生活向上に力を入れる姿勢を明確に打ち出しました。

トルード(労働)紙も「今、手ごろな値段の背広を見つけるのは困難だ」と指摘。


81年に70ルーブル(公式為替レート換算で約1万5千円)以下の背広の製造は全体の6%でしたが、87年には2%になったと述べています。


値上がりの理由は企業が独立採算制を取り入れ、自主権限幅が広がったのと無縁ではなさそうです。


デザインの一部を変えただけの新製品を売り出し、それに従来品の30%も高い値段を付けたり、安い製品の生産を抑え高い製品の生産を増やすといった動きが出ているためです。


競争のない条件のもとで物不足から安易に売り上げ、利益増をめざす企業行動が成立しやすくなっているといえるでしょう。


ペレストロイカの効果がなかなか上がらない大きな理由の一つは、価格体系改革に着手できないためです。


ソ連では食料品を中心に年間730億ルーブル(約17兆円)もの補助金がつぎ込まれ、小売価格が生産コストを大幅に下回っています。


また、価格体系が西側諸国とかなり異なり、開放経済を進める上でも改革は不可欠になっています。


しかし、ソ連経済は慢性的な物不足で卸売市場も存在しません。


企業の自主権限拡大、一部市場システムを導入してもまだその環境が整っていません。

1988年6月末から7月初めにかけて開かれた第19回全連邦協議会で、アバルキン経済研究所長は次のように指摘しています。


「過去2年間の国民所得の年間の伸びは停滞色の強かった第11次5力年計画(98~85年)より低い。


資源の節約など効率に関する指標目標は達成されず、消費財の生産を重視するとの党大会の決定は無視されている。


科学技術も遅れたままになっている」。


・・・このように指摘した後、アバルキン氏は


「我々は実に様々な決定をしてきた・・・。しかし、なにも変わらなかった」


・・・と述べ、量と質の両方を追うよりも質を重視すべきだと主張しました。


ペレストロイカの混乱は思わぬところにも波及してきています。


企業の自主権限の拡大に伴い製品価格の値上げが相次いでいるのです。


88年9月初めに開いた最高会議の価格問題に関する委員会で、過去の物価上昇が報告されましたが、それによると2年間で野菜は12%、パン18%、テレビ15%といった値上がりでした。


国家統計委員会の小売価格統計によると、政策的に値上げしてきたアルコール飲料を除く商品の物価は、過去15年でわずかに4%しか上昇していないのと比べると、最近の物価上昇はまさに異常だということでした。

米中央情報局(CIA)、国防情報局(DIA)が1988年4月に発表した「ゴルバチョフ政権の経済計画と問題点」でも、性急な改革路線が経済活動を混乱させていると指摘しています。


・・・これによると、87年のソ連国民総生産(GNP)の伸び率を実質0・5%(86年推定は同3・9%)と推定、経済が低迷していると結論づけています。


経済活動分野別でみると、工業生産の伸び率は1・5%で、86年の2・5%を下回りました。


化学、木材、鉄鋼などで前年より伸び率が低下、機械生産も前年と同水準にとどまったとしています。


その原因として、品質管理の強化や企業の自己資本調達制導入などの改革が現場に混乱を生んだことを報告書は挙げています。


また、農業は86年に次ぐ史上2番目の生産量でしたが、86年の8・2%の高い伸びから3・1%に伸び率は減少しました。


報告書は、88年のソ連経済も86年同様の問題を抱え、第12次5力年計画(1986~90年)の後半に当たる88~90年の成長率は年平均2%以下にとどまると予測していました。


経済改革が実を結ばないと社会や指導層内部で緊張が高まり、ゴルバチョフ書記長の指導力も影響を受けかねないとの見方をしています。


改革が経済的成果を上げていないとの指摘はソ連共産党内部でもあるのです。


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